家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「泣いちゃダメ、ロザリーちゃん」
見ればクリスもつられて涙目になっている。感情を共有してしまうのだろうか。子供というのは不思議だ。
「ごめんなさい。大丈夫ですよ」
「ロザリーちゃんも悲しいの?」
「大丈夫です。私も、パパもママもいないんです。一緒ですね」
「……クリスにはママがいるよ?」
「そうですね。私にもおじい様がいました」
おじい様の痛みを、共有してあげられなかった。それが今は一番切なかった。
父母への感情というよりは祖父への感情を取り戻したような感覚だ。
「……どうした?」
「何してるんだい? こんなところで」
ザックとケネスの登場だ。
よく真昼間にやって来るが、彼らは仕事をしなくていいのだろうかと心配してしまう。
「いらっしゃいませ。ケネス様、ザック様」
「おチビさん、ふたり揃って涙ぐんでどうした」
ザックがひょいとクリスを持ち上げる。
「わあ、高い!」
「はは。子供は高いところ好きだよな」
急に視界がよくなって、クリスにはあっさりと笑顔が戻ってきた。
(笑いましたね、よかった)
ホッとしてロザリーが見つめていると、ザックはからかいを込めて彼女を見つめる。
「君にもしてあげようか? お嬢さん」
「なっ……私、そんな子供じゃないですっ」
一気に真っ赤になって、ロザリーはぷいとそっぽを向く。
それでも、彼の反応が気になってちらりと伺いみると、何にも気にしていないように笑っている。歯がゆいのと同時に恥ずかしくなってしまった。
ザックに抱かれたクリスが、ロザリーの髪を軽く引っ張る。
見上げると、彼女もにっこり笑っていた。
「ロザリーちゃん、元気になった?」
言われて、ロザリーは自分が笑っていることに気づいたのだ。