家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「明日……王都に帰る予定だから、荷造りをしていたの。そうしたら指輪がないことに気づいて。問い詰めたら、この子が勝手に持ち出して失くしたっていうのよ」
クリスはびくりと体を震わせて、ロザリーにしがみつく。
「指輪? どんなやつだ?」
レイモンドの問いかけに、オードリーは目を泳がせ、何度か言いよどんだ。けれど意を決したようにぽつりとつぶやく。
「金のリングに琥珀の石のついた指輪よ」
「琥珀の……?」
レイモンドがハッとしたように息をのむ。
オードリーは気まずそうに眼を伏せたまま、再び大きなため息をついた。クリスが怯えたように再び泣き出してしまう。
「ごめんなさぁい」
「ごめんじゃすまないでしょ? おもちゃじゃないことくらいわかるでしょう。しまってあるものをわざわざ取り出して……」
「だって……、だって」
オードリーのいら立ちは生半可ではないようだ。
テーブルを指でトントンと苛立たし気に叩いたかと思うと、今度は大きなため息をついてうつむいた。
吐き出された声は涙声だ。
「お願い。……探してほしいの。指輪を」
ロザリーは困ってしまった。いくら何でも情報が少なすぎる。
「あの……、その指輪がどんな大きさとかをまず教えてもらわないと。それに失くしたときの状況も……」
「……探さなくていい」
なぜかそんな返事をしたのはレイモンドだ。