家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「え? でも」
「指輪なんて小さなもの、すぐに見つかるわけがない。まして、失くしたのはここじゃないんだ。街中を探すのは人ひとりでは無理だよ。第一なんで今更……」
「レイモンド」
傷ついたようなオードリーの声。レイモンドの険しい横顔。
ふと、ロザリーの中のリルとしての記憶の引き出しが開いた。
くらりとめまいがして、クリスを落としそうになり慌てて抱え込んだまましゃがみこむ。それを見たザックが慌てて駆け寄ってきた。
「ロザリー、大丈夫か? クリスはこっちにおいで」
クリスは不安そうな顔をしつつ、ロザリーの腕から離れた。「大丈夫?」と心配そうにのぞきこんでくる。それに笑顔を返す余裕もロザリーにはなかった。
「……ですか」
「どうした、ロザリー」
「指輪……は。あのときの指輪はどうなったんですか」
記憶に引っかかりができると、糸でひきこむように蘇ってくる。
頭の中に急激に広がる記憶を、ロザリーは脳内で必死に追った。
それは、リルが死を迎えた日の記憶だった。