【短】水に挿した花
その言葉に、嘘はなかった。
あの施設には、長らく…父親がいた。
彼は、若くして記憶力が数分しか保たないという難病を患い、ボクは幼い頃から…あの場所へ幾度となく顔を見せに行っては、彼にボクの顔を覚えて貰えるよう、努力をしていた。
母親は…。
全てのことに絶望して、家を出ていってしまったから、ボクは親戚中をたらい回しにされ、それでも生きていく為に、多少の困難には目を瞑って、これまでやってきた。
自分なりに…。
そう、たとえそれが、やってきた「つもり」であっても。
でも、それも今日で全てが終わってしまった。
彼は、結局、ボクの顔を最後まできちんと覚えられずに…旅立った。
冷たくなった彼の頬に触れ、今まで流れたことのない熱い涙が溢れていった。
なんて、無情な世界なんだろう。
ボクは、あの時の母親のように、絶望した。
けれど…。
そんなボクを慰めるようにして…ボクは彼女と出逢ったんだ。