恋と雨、
「レインちゃん、これよろしくね」
高校生だった先生が今は教師で、幼稚園児だった私が今は高校生
あの日以来強く生きていた私とは裏腹に、先生は未だになんというかヒョロヒョロしている。
見た目はなぜか格好良く変わっちゃって、今じゃ女子生徒からの人気は絶大。私が先に好きだったのに、いつの間にか先生はみんなのもの扱い。
関係も、歳も、変わっているのに、変わらない私を呼ぶ先生の声。
「どうしてあーちゃんて、先生にレインって呼ばれてるの?」
レインってあだ名は先生と知り合ったときに近所のいじめっ子に呼ばれていたあだ名で、まあ当時いじめっ子が呼んでいたのはレインじゃなくてレイだったのだけれど。
出会ったばかり、高校生の先生が今と同じことを私に聞いた。
「君はどうして、レイって呼ばれているんだい?」
おじいちゃんにそっくりな話し方に、小さな頃の私は口を尖らせていう
「雨女がゆうれいだから、ゆうれいのレイ」
今思えば雨女は幽霊ではないと思うけれど、子供の私を傷つけるのには十分な破壊力だった。
「なんでこんなにちいさな君が雨女なの?」
「私、飴っていうから。雨なんて大嫌いなのにみんな雨女だっていうの」
公園によくある筒みたいな遊具の中、ひざを抱える私に傘を持って、筒の出口の近くにしゃがむ先生が「僕は好きだけどなあ、雨。」小さいながらに、名前を呼ばれたようでドキドキした。
どうしてか、理由を尋ねる私に
「雨が降ると苦手な体育に出なくて済むから、かなあ」
あまりにしょうもない理由だったけど、私は自分をほめられたような気がして嬉しかった。
家まで送ってもらった別れ際、肩の少し濡れた先生が私に言った
「じゃあね、レインちゃん」
レイではない呼び方で、意味のわからない私は
頭にはてなが浮かんで、家に帰ってすぐ母に尋ねた
急かす私に母は、レインは英語で雨という意味なのよ、ゆっくりいった。
幽霊のレイじゃない呼び方がすごく嬉しくて、
以来先生は授業以外ではレインと私を呼ぶ。
「教えなーい」
えーと文句を垂れる友人に当ててみて、と少しはぐらかす。
これは先生と私の唯一の秘密、思い出だから。