独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
黒のパンプスを履いてきてよかった、と小さく安堵する。
事務所に戻る廊下を観察しながら歩く。
途中で見学に来ている男女のお客様とすれ違い、頭を下げる。ふたりともとても幸せそうな表情を浮かべている。お互いを見つめる眼差しには優しさが溢れていて、一目で恋人同士だとわかる。
館内の奥のほうへ足を進めた時、突然、眼前の重厚な扉がけたたましい音を立てて開いた。
「最低‼」
甲高い怒鳴り声とともに、金茶色に近い長い髪の女性が飛び出してきた。
「謝礼はきっちりいただきますからね‼」
捨て台詞を吐いて、彼女は勢いよく踵を返す。
女性と真正面から向き合うことになってしまった私は、慌てて頭を下げる。化粧は派手めだけど、目鼻立ちのはっきりした女性だった。
何も言われないので、迷いながらもそっと顔を上げる。眼前の女性は身体にぴったりとした黒のフレンチノースリーブのワンピースを身に着けている。
怒りに顔をゆがめながら彼女は高いピンヒールのサンダルを履いた足を踏み鳴らし、私に近づく。
「こんな仕事、こっちからお断りよ! 何様なの!」
荒々しく私に向かって言い捨て、彼女はピンヒールの音を高く響かせて出口へと向かう。
呆気にとられた私が彼女を追いかけようと慌てて振り返ると、背後からバタバタとチーフをはじめとした三人の女性スタッフが走ってきた。
「お、お待ちください‼」
「高橋さん、鈴木さん! 彼女を追いかけて! せめてお怒りだけでも収めていただいて! 設楽様のところには私が向かいます!」
チーフが焦りながら別のスタッフに指示をする。ふたりのスタッフがバタバタと走り出す。
事務所に戻る廊下を観察しながら歩く。
途中で見学に来ている男女のお客様とすれ違い、頭を下げる。ふたりともとても幸せそうな表情を浮かべている。お互いを見つめる眼差しには優しさが溢れていて、一目で恋人同士だとわかる。
館内の奥のほうへ足を進めた時、突然、眼前の重厚な扉がけたたましい音を立てて開いた。
「最低‼」
甲高い怒鳴り声とともに、金茶色に近い長い髪の女性が飛び出してきた。
「謝礼はきっちりいただきますからね‼」
捨て台詞を吐いて、彼女は勢いよく踵を返す。
女性と真正面から向き合うことになってしまった私は、慌てて頭を下げる。化粧は派手めだけど、目鼻立ちのはっきりした女性だった。
何も言われないので、迷いながらもそっと顔を上げる。眼前の女性は身体にぴったりとした黒のフレンチノースリーブのワンピースを身に着けている。
怒りに顔をゆがめながら彼女は高いピンヒールのサンダルを履いた足を踏み鳴らし、私に近づく。
「こんな仕事、こっちからお断りよ! 何様なの!」
荒々しく私に向かって言い捨て、彼女はピンヒールの音を高く響かせて出口へと向かう。
呆気にとられた私が彼女を追いかけようと慌てて振り返ると、背後からバタバタとチーフをはじめとした三人の女性スタッフが走ってきた。
「お、お待ちください‼」
「高橋さん、鈴木さん! 彼女を追いかけて! せめてお怒りだけでも収めていただいて! 設楽様のところには私が向かいます!」
チーフが焦りながら別のスタッフに指示をする。ふたりのスタッフがバタバタと走り出す。