独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「本物の婚約者になったんだから、泊まって行く?」
後片付けまでも一緒にしてくれる彼は、私にそう言って微笑む。

「い、いいです。帰るから!」
布巾で拭いていたお皿を落としそうになる。

私からお皿を受け取った彼は、私の頬にかかる髪を骨ばった指で耳にかける。微かに触れる彼の温もりが私の鼓動を落ち着かなくさせる。

「帰さないって言ったら?」
その言葉にヒュッと息を呑む。私を見る彼の瞳に隠しきれない妖艶さが浮かぶ。彼がそっと私の頬に指を滑らせる。

「なんで……」
「なんで? 帰したくないから。橙花と一緒にいたいから。離れたくないから」
潔いほど真っ直ぐに彼は返答する。
どういう意味? どうして私といたいの?

「橙花は俺といたくない? 帰りたい?」
そんな聞き方はズルい。そんな風に好きな人に尋ねられて肯定なんてできない。

限界まで目を見開いて彼を見つめ返す私。気の利いた返事がひとつも浮かばない。

「……一緒にいたい」
その言葉を紡ぎ出すだけで今は精一杯。心の中ではずっとあなたに懇願している。

私に恋をして、お願いだから。
私を好きになって、それからそう言ってほしい。

私の願いはきっと叶わない。
ならばせめてもう少し一緒にいたい、その我が儘はかなえてほしい。

「じゃあ、一緒にいよう。大丈夫、橙花の覚悟が決まるまで手は出さないよ」
色気のこもった声でそう言って彼は私の頬に小さくキスをした。
この間買った橙花のものがやっと使えるな、と彼は至極嬉しそうに笑う。
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