独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「ハハッ、冗談、今はな」
そう言って彼は楽しそうに自身の腕を組んで笑う。

「か、からかわないで!」
真っ赤になった私は、頬に片手を添えて反論する。

「からかってないけど? 同棲は俺の願いだし、橙花の気持ちが俺に追いつくまで、焦らずに攻めるから。もう遠慮しないから覚悟しろよ?」
それってどういう意味? そもそも遠慮なんてしていたの⁉
目を見開いたまま、言い返せなくなる私。

クスクス笑いながら彼は私の横を通り過ぎ、ウォークインクローゼットを開けて中のものを見せてくれた。
きちんと棚に収納されたバッグ。小さな木製のチェスト。そしてたくさんのきらびやかな服。

「あ、あの、こんなにしてもらって、私、ご、ごめんなさい。お金は少しずつでも返します……」
どうしてよいかわからず、思わず謝ってしまう。

今さらだけど、この部屋、総額いくらかかってるの?
私の貯金すべてを差し出しても支払える気がしない……!

あのベッドも机もきっと高価なものだろう。
私の言葉が不服だったのか、恐る恐る見つめた彼の顔はとても不機嫌になっていた。

「そんなのいらない。俺がしたくてしたことだし。橙花、俺が婚約者を邪険に扱うような、婚約者から金を要求するような男だと思ってるわけ?」
ぞんざいな言い方になぜか腰がひける。

「そ、そんなことは思ってない! ただ、何もかもしてもらいすぎな気がして……申し訳なくて……」
だって私はあなたの便宜上の婚約者なのに。
こんな、まるで愛する人にするみたいな待遇をされてしまったら、期待しそうになってしまう。
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