独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「橙花はありがとうって言って、笑って受け取ってくれたらそれでいいんだ」

そう言って彼は部屋に立ち尽くす私の前に立つ。その瞬間私の視界が塞がれて彼に抱きしめられていることに気づく。彼の香りと体温が私を包み込む。

出会った頃はあんなに強引で無理矢理キスまでしてきたくせに、今は私を見つめる綺麗な瞳も抱きしめる腕もとても優しい。
あの頃は考えられなかった。この人に恋をするなんて。この人がこんなにも優しくて温かい人だなんて知らなかった。

傲慢で厳しい人だと思っていた。副社長という肩書きにピッタリのエリートで雲の上の存在だと思っていた。

なのに今、私を抱きしめる腕はとても温かくて胸が震える。年上の男性なのに少年みたいな仕草やあどけない笑顔さえ見せてくれる。その度に私はこの人に惹かれていく。想いは留まることを知らずに膨れ上がっていく。

私は最初からこの人に恋をしていたのかもしれない。恋を知らなかった私に恋を教えてくれた唯一の愛しい人。
分不相応の恋はきっと泡になって最後に消えてしまうだろうけれど、今だけはこの温もりに甘えたい。

「……一緒の寝室にするか迷ったんだけどな」
私の髪を弄びながら不埒なことを言う副社長を、私は紅潮した頰のまま睨み付けた。

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