独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
私は胸がドキドキして言葉がうまく紡げない。顔から火が出そうだ。こんな私を梓は不審に思わないだろうか。

こんなに無防備に婚約者について話してしまって良いのだろうか? 私は偽物の婚約者だというのに。後から撤回なんてできるのだろうか。

「わ、私も知らなかった……」
雑誌を熱心に読んでいる振りをして、梓に返事をするのが精一杯だった。

「そうよね。やっぱり雲の上の人は、私たちが知らない間に結婚しちゃったりするのよね。こんなにハイスペックなイケメンに大切に想われるなんて羨ましい!」
幸いなことに空想に夢中の梓は、うっとりした声で話し続ける。

「そ、そうね。どんな人なんだろうね」
小さく相槌を打つ私に、梓が思い出したようにバッともう一冊の雑誌を取り出した。それは週刊誌のようだった。

「この雑誌に婚約者の姿が撮られているみたいなのよ! これもさっき菜緒に借りてきたんだけど」
彼女の言葉に背中にタラリと冷たい汗が流れる。紅潮していた頬から熱が一気にひいていく。

週刊紙に姿が撮られているなんて聞いていない! どういうことなの?
梓や皆に私の代理婚約がバレてしまう。

彼女はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、ページを開いてくれる。
ドクンドクンと心臓が大きな音を立てる。彼女が目的のページを開くまでの時間がとても長く感じられた。

「ほら、この女性。暗いし後ろ姿だから、顔ははっきり写ってないのだけど。設楽ホールディングスのどこかの部署に所属しているみたいなの」
そこに写っていた女性は私ではなかった。その事実に安堵したのも束の間、頭から血の気がひいていく。
< 108 / 158 >

この作品をシェア

pagetop