独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
待って、この人……?

細身の長身にベリーショートの髪。
設楽ホールディングスのどこかに勤めている人。

私の頭の中でかちり、かちりとパズルのピースが埋まっていく。
後ろ姿で輪郭もぼやけているけれど……この人はハーモニーガーデンの羽野チーフじゃないだろうか。

「……嘘……」
心の中で呟いたはずだったのに、声が漏れていたらしい。

「わかる、その衝撃。私たちと同じ社員だなんてビックリよね。この方自身は婚約者じゃないって否定しているらしいんだけれど、裏付けする周囲からの証言はいくつもあるらしいの」
梓が丁寧に教えてくれる。今はその親切が胸に痛い。

ふたりは小さな頃からの幼馴染で、共に育ってきたという。羽野チーフのご実家は有名な名家らしい。お互いの力量をよく知っているため、会社でも重要なポジションにいたらしい。

脳裏に、一番最初に煌生さんに出会ったときの羽野チーフの姿が浮かんでくる。確かに羽野チーフは彼に対して、気後れすることもなかった。恐縮していたり、遠慮している様子もなかった。むしろ堂々と自身の意見を彼に伝えていた。その態度もふたりの幼い頃からの関係を知れば納得だ。

どういうことなのかわからない。
私を代理婚約者に仕立てたのは羽野チーフとの関係が周囲にバレてしまうのを恐れたから? だからあの時、羽野チーフは私を止めたの? 
羽野チーフが本物の婚約者なの?

氷を埋め込まれたように胸の中が凍り付いていく。手足が痺れたように動かない。
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