独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「あの、羽野チーフ!」
どうしてよいかわからず、女性が飛び出してきた部屋へ向かおうとしていたチーフに声をかけて引き留める。

「ああ、都筑さん。ごめんなさい、トラブルなのよ。サブチーフが事務所にいると思うから指示を仰いでくれる?」
顔だけを私に向けて、彼女が私に早口で告げて走り出す。

「わかりました。先ほどのお客様をお引止めできずに申し訳ありません」
通り過ぎていくチーフに謝罪を告げると、彼女は何かを思い出したように足をとめて、バッと振り返った。

「ごめんなさい。サブチーフは休みだわ! 申し訳ないけど一緒に来てもらってもいい? 時間がないから。この件が済んだら、今日の業務を伝えるわ」
グイッと手を引かれ、チーフに連れていかれた場所は先程の女性が飛び出してきた部屋の中だった。

広い室内は淡いベージュを基調とした、落ち着いていながらも品の良い装飾がされている。大きな窓にはボリュームのある生地のカーテンがかかっている。柔らかな陽射しが室内に射し込む。どうやら挙式前の控え室といった場所のようだ。

細かい花柄の布地が張られた三人がけのソファの真ん中にひとりの男性が座っていた。俯いて手元にある書類に目を通している。

先ほどの騒動など知らないといったような静寂が部屋には漂っていた。ソファの右横にはひとりの長身の男性が立っていた。ソファの前には飴色のセンターテーブルが置かれている。
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