独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する

「ああ、羽野チーフ。申し訳ありませんね、先程の方とは残念ながら意思の疎通ができませんでした。お帰りになられたみたいなので、謝礼はこちらでお支払いしておきます」
　立っていた男性が落ち着いた様子で羽野チーフに話しかける。
三十代くらいだろうか。漆黒の髪に縁なし眼鏡をかけた涼やかな顔立ちが印象的だ。

「……かしこまりました」
若干、ひきっつた表情でチーフが返答する。

この人たちは誰だろう。どこかで見た気がする。立っている男性は物腰は柔らかそうだけど、何事にも動じなさそうな懐の深さを感じる。
チーフが恐縮している姿を見る限り、この方々が特別なお客様なのだろうか。

「何があったのか、伺っても？」
若干疲れた様子でチーフが尋ねると、ソファに座っていた男性がふいに顔を上げた。

立っていた男性もかなり整った顔立ちだと思ったけれど、彼はそれ以上に美麗な顔立ちをしていた。周囲の視線を簡単にさらってしまうほどの、見る人を圧倒する綺麗な目が印象的だ。

離れた距離からでもわかる、男性とは思えないくらい透き通った肌。長めのツーブロックスタイルの薄茶色の髪は地毛だろうか、柔らかそうだ。

「仕事だと言っているのに、あの女、恋人にしろとか言ってきたんだ。化粧は派手だし、香水はきついし、考え方は浅はかだし、最低だ」
低い声が彼の形のいい唇から紡がれる。出てくる言葉は残念なほどの悪口の限りだったけれど。

「それで、副社長が交際も今回の仕事も丁重にお断りしたところ、怒り心頭のご様子で飛びだしていかれたんです」
彼の言葉の後を引き取って、縁なし眼鏡をかけた男性が話を続ける。話を聞いている限り彼が丁重に断ったとは思えない。

ツンと澄ました横顔は大抵の女性が見惚れてしまうくらい綺麗だが、温度が感じられない。