独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「まあ、不必要なことまで言ってさらに怒らせたのですけど」
副社長と言われた男性を見ながら、眼鏡の男性が困った表情で付け加えた。
やっぱり、と心の中で呟く私。

「仕方ないだろ。俺は黒髪の真面目そうに見える女にしろって指示したはずだぞ。なんでよりによってあんな真逆の女が来るんだ」
不機嫌さを露わにする美形男性。

「それは羽野チーフの落ち度ではないでしょう。後で派遣会社に確認しておきます。それにしても困りましたね。ここのスタッフの方は社長もご存知ですので、代理をしていただくわけにもいきませんし」
冷静に考え込む眼鏡の男性。

その時、チーフのスマートフォンが微かな振動を告げた。何度も鳴り続ける振動音に眼鏡の男性が出るように促す。チーフがを一礼して入り口近くで応答する。

「ええ!? 何とかならないの? ……わかったわ、行きます」
そう言ってチーフはふたりの男性に向き直る。

「申し訳ありません。模擬挙式でトラブルがあったみたいなので少し席を外してもよろしいですか?」
恐縮した様子のチーフ。

「おや、それは大変ですね。どうぞ、行ってください」
快く眼鏡の男性が言う。

「ありがとうございます。すぐに戻ります。では行きましょう、都筑さん」
チーフが私に目配せした時、おもむろに副社長が私を見て、声をかけた。

「アンタ、見たことのない顔だが、ここのスタッフなのか?」
「言われてみればそうですね、こちらでは拝見したことがありません」
余計な一言を眼鏡の男性が付け加える。


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