独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「私が婚約者ってやっぱり不似合いだよね……私じゃ役不足だよね」
後悔に似た言葉が零れ落ちる。それは誰に言われなくても一番自分が理解していることだ。

「でも私、あなたを好きになってしまった。あなたがただの便宜上の意味での本物の婚約者を望んでるってわかっているのに。ひとりの女性として求められていないってわかっているのに」
泣きたくなんてないのに、ずっと胸の奥に燻って堪えていた感情が溢れだして、涙となって頬をつたう。

「ごめんなさい。もう少しだけ、せめてパーティーが終わるまでは傍にいさせて。終わったらあなたに正直に気持ちを話すから。それできちんとさようならをするから」
彼が必要とする存在になりえないなら、私は完全に役不足だ。私の気持ちも何もかも迷惑でしかない。
だけどこのまま感情を押し殺して、代理婚約者として彼の傍に居続けるのは何より辛い。

大輝さんに言われたからじゃないけれど、せめて最後くらい自分の正直な気持ちを彼に伝えたい。初めて好きになった人にその想いを伝えたい。

「……あなたが好きです。あなたと一緒にいたい」

口にした言葉は小さく震えていた。初めての告白は涙と一緒に零れ落ちる。
それでも聞かれていないとわかっているからこそ伝えられる、正直な私の気持ち。

どうして起きている彼を前にしたら、言えなくなるのだろう。どこが好きなのか、何が好き、なんてわからない。ただ好きで、ただ傍にいて、この人を守りたい。一緒に生きていきたい。そんな風に思える人に初めて出会った。

毎日の会社での仕事は嫌いじゃなかった。穏やかな日々を過ごしている自分で良かった。
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