独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
そのまま言いくるめられるように、私はズルズルと彼に会場まで連れていかれた。
一歩足を踏み入れたそこは別世界だった。きらびやかなシャンデリアに大勢の招待客。

大輝さんが登場すると、一斉に皆の視線が彼に集まる。そしてその視線はおのずとエスコートされている私に移される。

「まあ、専務よ。相変わらず素敵ね」
「あら、お隣の女性は?」
「もしかして副社長の婚約者ってあの方?」

皆の好奇の視線にいたたまれず、顔が上げられない私に大輝さんが笑みを貼り付けながら、囁く。
「堂々としていなよ。皆、橙花さんが綺麗だから見てるんだって。橙花さんの態度がそのまま兄貴の評価になるんだよ」

その言葉に背筋が伸びた。
そうだ、怯んでる場合じゃない。だって私は煌生さんと約束した。しっかり代理を務めると。私のせいで彼に迷惑はかけられない。

自信なんて何もないけれど、せめて最後に代理婚約者としてしっかり務めたい。それから彼に気持ちを告白したい。

そう思って震えそうな足を踏みしめて、顔を上げる。内心では泣きそうだし、鼓動も忙しなく動いている。大輝さんの腕に軽くそえた指も震えている。こんなに人から注目されたことはないし、許されるなら今すぐ走って逃げ出したい。

必死に笑顔を浮かべ、大輝さんについて招待客の皆様や関係者の方々に挨拶をする。柿元さんと姉と死に物狂いで練習をした甲斐はあった。

パーティーは和やかな雰囲気で進み、社長に続き、大輝さんが挨拶と新サービスの説明をするために壇上に向かう。
大輝さんに、社長夫妻には改めてパーティーの後で紹介すると言われた。
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