独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
その時、突然会場の照明が少し落とされた。何があったのか、と皆がざわつく中、凛とした低い声が響いた。

「皆様、本日はお忙しい中、ご出席くださり、誠にありがとうございます」
淀みなく話し出す男性の姿に、声がでなくなる。

「間に合ったな」
壇上に向かったはずの大輝さんが、私の右隣で面白そうに言う。

「本当に良かったわ」
その大輝さんの傍らにはなぜか、膝下丈のベージュのドレスを品よく着こなした姉もいる

「ど、どういうこと? どうして煌生さんが!?」
思わず大声をあげかけた私の口を、姉が身を乗り出して必死で押さえる。

「シーッ! 大きな声を出しちゃだめよ、橙花ちゃん!」
「兄貴、どうしても新サービスの説明は自分でしたいらしくてさ。改めて思うけどいいサービスだよ。庭園を好きにデザインできるなんて」
大輝さんが魅力的な笑みを浮かべて説明してくれる。

「……ありがとうございます……でも形にしてくださったのは煌生さんと大輝さん、柿元さんですよ」
恥ずかしくなって俯いて話す私に、姉が声をかける。

「橙花ちゃんのそういうところが、副社長は気に入っているのね」
姉の言葉に大輝さんも頷く。

「……そういうところって?」
いまいち納得できずに首を傾げる私に、姉は小さく笑んだ。

「そういうところ、よ。ほら、副社長が話を始めるわ」
そう言われて視線を壇上の煌生さんに向ける。彼は挨拶をし、話し出す。朝方まで寝込んでいた人とは思えない。

仕立ての良い明るめの紺色の高級スーツに身を包み、髪も整えている。堂々と立ち、身ぶり手振りを交えて饒舌に話している。ほんの少しやつれたように見えるけれど、綺麗な顔立ちは何ひとつ変わらない。
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