独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
ああ、パーティーが終わる。私の最後の役目が終わる。

近付いてくる彼の姿を見つめながら、そう思った。
最後くらい、この時間くらいは笑顔でいたい。

「橙花、ありがとう」
私が声をかける前に、彼が優しい声で私に話しかけた。いつもよりも素敵な姿が眩しくて彼を直視できない。

「わ、私は何も……そ、それよりも煌生さん! 体調は大丈夫なんですか!? まだ熱があるのに……!」
慌てて問い返す私に、彼がクックッと笑む。

「大丈夫。随分休ませてもらったからな。せっかく橙花が提案してくれた大事な新サービスのお披露目なんだ。出席しないわけにはいかないだろ?」
あんなに大勢の前で堂々とスピーチをしたとは思えないほど、くだけた様子で彼が言う。

「提案したとはいっても、私はただ思いついたことを口にしただけで……」
そう、私は何もしていない。

形にしてくれたのは煌生さんだ。準備はある程度出来ていたとはいえ、最後の重要な箇所や参考資料、先程お披露目した映像等はこの二日間で大輝さんと柿元さんが作成してくれた。

今日の段取りからその内容、その全てを彼は熱が下がってからの短時間の間に完璧に頭に入れてきたということになる。改めて彼の有能さを思い知る。
そしてこの会場の人を一瞬で惹き付ける経営者一族として、次期社長としての彼の力量と魅力。
私が隣にいることさえ、本来なら敵わない人だ。

「よく言うよ。散々俺らをこきつかって」
大輝さんが溜め息混じりに言う。

「お前にも柿元にも感謝しているよ」
そう言って彼は大輝さんと会場の隅々に目を光らせて忙しなく動いている柿元さんに視線を向けた。
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