独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
……何を言っているの?

彼の言葉が途中から耳に入らなくなる。頭の中が真っ白になる。周囲から、わっとわきあがる歓声と祝福の言葉。

そのすべてが現実のものとは思えない。
マイクを社長に渡し、彼は呆けたままの私に向き直る。

「……なんの、冗談? こんな発表をしてしまったら取り返しが……!」
ここがどこかも忘れて、まわらない頭で反論する私の腰を引き寄せて、彼は耳元で甘く囁いた。

「冗談なんかじゃない。本気だ。言っただろ? 橙花は俺の本物の婚約者だって」
「でも、私は……!」
あなたに恋をしてしまったから。だからあなたの傍にはもういられない。

そう告げようとする私の言葉を遮るかのように、彼は私の腰をさらに引き寄せて自身の身体に密着させる。
伝わる彼の香りと体温。彼の声が私の耳朶を震わせていく。

「……橙花を愛してるんだ」

思わず目を見開く。その言葉に時間がとまった気がした。周囲のざわめきが遠のいていく。鼓動が狂ったように暴れだす。

それは私が恋心を自覚してからずっと願っていたこと。ずっと聞きたいと思っていた、たったひとつの言葉。
これは夢なの?

「……今、なんて……」

近すぎる距離にある彼の紅茶色の瞳を見つめる。切な気に細められた綺麗な瞳は真っ直ぐに私を見つめ返す。

「橙花を愛してる。だから俺の婚約者になって、結婚してほしい。ずっと傍にいてほしいんだ」
律儀な彼は、もう一度同じ言葉を丁寧に紡ぐ。
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