独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
2.契約
「都筑様のご準備ができました」

目の前のドアが開く。
私の全身を着飾ってくれた人たちがそっと頭を下げて私を前に押し出す。足元がおぼつかない。こんなに高いヒールなんて履いたことがない。

「へえ、似合うな」
どこか面白がるような声とともに、とんでもなく端正な顔立ちの男性が近づいてくる。

「ええ、都筑様は華奢ですし色白でいらっしゃいますので、このワンピースが良くお似合いですわ」
「ありがとう。忙しいところ申し訳なかったね。もう戻ってくれて構わないよ」
勘違いしそうなくらいに煌めく笑顔を振りまく副社長。
妙齢の女性店員は頰を染めて彼に見惚れている。

詐欺だ、絶対。この人は私の前でこんな話し方をしたことがない。
ドアがそっと閉じられた途端、私は彼をキッと睨みつける。

「こんなご予定だとは伺ってませんけど!」
「あれ、言ってなかったっけ? 今後、周囲にアンタが俺の婚約者だって見せつけるための会社訪問をすることになるから。その準備をしないといけないだろ?」

ここは一般庶民の私には絶対に足を踏み入れることができない高級ブランド店のいわゆるVIPルーム。

近くにある椅子に浅く腰かけた彼がしれっと言う。
私が着せ替え人形になっている間も仕事をしていたのか、彼の眼前のテーブルにはノートパソコンが置かれている。
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