独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
あまり嬉しくないフォローをいただく。
私はふうっと大きく息を吐いた。頭が痛い。

『それでもやっぱり私には無理です! 婚約者なんて責任が重すぎます』
きっぱりと断る。一旦は引き受けると言ったが、事務関係の仕事ならまだしもこんな業務は畑違いだ。苦手すぎる分野もいいところだ。

『アンタに責任を負ってもらうような事態にはならないから。大丈夫、もちろんタダでとは言わない。それに見合う見返りを準備するつもりだし、アンタが携わっている穂積の仕事に支障がでないようにする』
つらつらと条件を羅列される。

『報酬が欲しいわけではありません。とにかく無理です!』
再度気持ちを伝える。

『何か問題があるのか? ほかに必要な条件があるなら善処するぞ』
彼が紅茶色の瞳で私を凝視しながら問う。

ああもう、この人は諦めそうにない。

『私、そういうことは苦手なので無理なんです!』
恥ずかしさを押し殺して伝える。

『そういうことって?』
長い足を組み替えて不思議そうに彼が言う。

ソファのひじ掛けに頰杖をついてじっと私を見る。人を真っ直ぐ凝視するのはこの人の癖なのだろうか。

『その、恋人同士のフリとか』
頰が熱くなる。どうしてこんなことを口にしなければいけないのだろう。

『……ああ、そういうことか。アンタ、彼氏とか好きな男がいたことないだろ?』
察しの良い彼が、口角を上げてさらりと言う。

図星すぎて、一瞬返事に遅れる。どうしてわかったんだろう。

『そ、そうだったらなんですか!? 私は恋愛に興味なんてないんです! 恋愛なんてしたいと思ったことはありません!』
不自然なくらい早口で話してしまう。
膝の上に置いた両手が震えそうになる。

もう帰りたい。恥ずかしすぎる。
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