独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「ああ、大事な婚約者なんだ」

肩を抱いたまま、私の肩にかかる毛先を長い指で弄んで彼が不敵に笑う。ドキン、と心臓がひとつ大きな音をたてた。

こんなのおかしい。演技に決まっているのに、私は何を緊張しているの。

思わずうつむいて地面を見つめる。顔の熱さがどんどん酷くなる。島木さんがそんな私を見て楽しそうに笑っている。

「よく似合ってる、可愛い」

ポツリと小さな低い声が私の鼓膜を震わせる。それはきっと私だけに聞こえた声。

ビクッと肩を上げた私の頭をポンと撫でて、彼が島木さんのほうに歩いていく。私はなぜか言葉を失って、その後ろ姿に声をかけられなかった。

帰り道、車で通りかかった公園の前でいきなり副社長が声を上げた。
「ドレスアップもしているし、ここで写真を撮るか」
「ここ、ただの公園ですよ?」

本当にたまたま通りかかっただけの、どこにでもあるような公園。
入り口近くにバス停があり、遊具も置かれているから日中は子どもたちが大勢遊んでいるのだろう。

「だから、普段の何気なさがでていいんだろ?」
彼が悪びれもせず、そう告げて柿元さんに停車するように指示を出す。

「恋人同士ですので、照れずにもっと近づいてください」
カメラを手にした柿元さんに何度も言われたけれど、そんなに簡単にはできない。

そもそもこの人は、横に並ぶには迫力がありすぎる美形なのだ。身長差はこんなにあるのに、私と顔の大きさがたいして変わらないってどうなんだろう。
男性なのに肌も透き通るように白くて綺麗で、もうここまで完璧だと嫌味も出てこない。
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