独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「アンタさあ、顔に表情がなさすぎなんだけど。まさか男と写真も撮ったことない?」
顔以外は残念な副社長が私の左隣に並びながら、小声で呆れたように言う。

「兄ならありますが」
顔を引きつらせながら、淡々と返答する私。

「兄貴は別次元、数に入れるなよ」
ズバズバと人のプライバシーを暴露していくデリカシーのない副社長。

耳元で囁かないでほしい。その低音に心臓が慌ただしく動きだす。さらに彼は私をじっと左横から見下ろして、何かを考えている。

「あの?」
彼の反応を訝しみつつ、声をかける。

「なんでだろうな? 確かに素直じゃないし、言葉遣いも辛辣だけど、アンタ可愛くて正直でいい奴なのにな。まあ、そのおかげで俺は助かっているけど」
頰にキスをするかのように顔を近づけて、そっと囁く副社長。

怒っていいのか、お礼を言えばいいのか反応に戸惑う。こんな風に異性から率直に言われたことはない。近すぎる距離に思わず腰が引ける。

すかさず彼が私の腰に長い腕を回す。まるで自身の体から離れるのを許さないと言わんばかりに。

彼の言葉と真剣な紅茶色の瞳に、不覚にも胸が熱くなった。褒められているわけではないのに。

数時間前に会ったばかりの人に、私のことが理解できるわけがないのに、どうしてこの人の言葉はこんなにも胸に沁みるのだろう。

悔しいからそんなことは絶対に口にしたくない。
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