独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり社長って! 私マナーとか何もまだ勉強できていないのに無理です!」

先程までの不機嫌さが吹き飛ぶ。一気に顔から血の気がひく。どうしてこの人はこんなにすべてが突然なんだろう。

「本当に帰社しているかまだ確認がとれていないから。一か八かだから大丈夫だ」
一切動揺することなく返答する副社長。何が大丈夫だというのか。

「そういう問題じゃありません! 帰社されていたらどうするんですか⁉ 私、婚約者と言えるほど、副社長のことも存じ上げていないのですよ!」
金切声で叫ぶ私の右手を彼がギュッと握る。その仕草にぴくりと肩が跳ねる。

「な、何を……」
「大丈夫。俺がアンタを守るから」

握った手を自身の薄い唇にあてながら、彼は低い声で言い切る。その色香と決意のこもった眼差しに言葉を呑み込んでしまう。そもそもの原因は彼なのに。

わからない。どうしてそんな言い方をするの。守る、だなんて。まるで私が大切な存在であるかのような言い方をしないでほしい。そんなはずはないのだから。私はただの代理婚約者なのだ。

この紅茶色の瞳は危険だ。見つめ返すと自分が特別な存在なのかと勘違いをしそうになってしまう。

「じ、自分の身くらい自分で守ります!」
上がっていく心拍数を悟られないようにぶっきらぼうに言い捨てて、窓の外を見つめる。

運転席から柿元さんが小さな笑いをかみ殺しながら口を開く。
「ご迷惑をおかけいたします。ご安心下さい。副社長同様私も都筑様をお守りいたしますから。でも副社長がここまで素の自分をさらけ出して話されるのは大変珍しいです。しかも女性に」
「……うるさい、柿元」
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