独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「こ、こ、煌生さ、ん」
消え入りそうな声で呟く私。恥ずかしすぎて泣きそうだ。彼の目を直視できない。

「まあ、上出来、かな? 俺を呼ぶ時はこれから名前で呼べよ。敬語もやめろ」
そう言って彼はスル、と私の顎から指を外す。その指がほんの一瞬、私の頰を掠める。触れられた場所がカッと熱をもつ。

「橙花、親父の前で頼むからそんな可愛い顔をするなよ?」
真っ赤になって俯く私をクスクス笑いながら彼は柿元さんに話しかける。

この人、本当にどこまでが本気なのかわからない!
私の特技は顔に気持ちが出ないことだったのに、この人の傍にいるとペースが崩される。

荒れ狂う私の気持ちとはお構いなしに車は、以前私が試着を繰り返した高級ブランドショップに到着した。そこで濃いベージュの、ウエストを高い位置で絞ったサテン生地のワンピースに着替えた。
更に用意されていたピンヒールを履いて、別室でヘアメイクを施された。変身後の私を見て、彼は満足そうに頷く。

それから再び柿元さんの運転する車で本社に向かった。私の勤務先のビルとは比べものにならない立派で荘厳な建物。三十階建てだろうか。時折目にする社報で見かける建物が眼前に迫っている。

広すぎる敷地、入り口までのアプローチが驚くほど長い。淡いベージュの建物に畏怖さえ感じる堂々とした入り口。地下駐車場、と表示された場所に向かうのかと思いきや、副社長は堂々とエントランスの車寄せに向かうように柿元さんに指示をする。

副社長の車だと社員に認識されているのか、チラホラと通り過ぎていく人が視線を投げかける。もうそれだけで居たたまれない。
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