独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「親父に会っても普段の橙花のままでいろよ。取り繕う必要はない」

まるで私を安心させるかのような声。私が失敗したら社長になれないというのに、どうしてそんなことが言えるのだろう。

「大丈夫です! 契約は契約です! 全力を尽くします!」
空いているほうの手でギュッと拳を作って握りしめる。その瞬間、彼が声を上げて笑った。

「あれだけ泣きそうな顔をしていたくせによく言うよ」
「し、仕方がないじゃないですか‼ 私は副社長と違って皆から注目を浴びることなんて慣れてないんですよ!」
思わず反論すると、ほんの一瞬彼の目が悲しそうに見えた。

「慣れてない。注目されているのは俺の外見と持ち物だけだろ」
不愉快そうに言う彼の表情は険しい。それでも私はお構いなしに続ける。

「外見だけでもいいじゃないですか! 注目されるってことは期待されているってことです。穂積不動産株式会社の女性社員にハーモニーガーデンはすごく人気なんですよ。ここで結婚式を挙げたいって希望している社員は大勢います。私は副社長のことはよく存じ上げませんが、あなたがされた努力や功績はきちんと誰かの胸に届いていますよ」
いきなりまくしたてる私に、副社長は少し驚いたような顔をした。それからほんの少し照れ臭そうにそっぽを向いた。

「俺のことを知らないアンタが偉そうに言うな……でもありがとう」
普段の彼からは想像もつかないくらいに小さな声だったけど、この瞬間、とても彼を近くに感じた。胸の中がじんわりと熱をもつ。
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