独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「……ところで、俺はさっきアンタになんて言った?」

すっかりいつもの調子に戻った彼が不敵な笑みを浮かべる。
トン、と彼が空いているほうの手を壁につける。上昇するエレベーターの中で彼と壁に身体を挟まれる。

「これからは敬語もやめて、名前で呼べって言ったよな?」

魅入られそうなくらいに色香のこもった眼差しが私を見据える。
ドキンドキンドキン、鼓動が一気に加速する。

「こ、これからは名前で呼ぶので! 敬語も気を付けます!」
彼を押しのけるように、私も空いているほうの手を前に出す。その手を逆に彼の手で包まれる。

「お仕置き、だな」
「ええ!?」
思わずギュッと目をつむった私の額に、ふわりと触れる感触。

恐る恐る開けた目に映った、泣きたくなるくらいに甘い紅茶色の瞳。さらに彼は左頰に口づける。私は瞬きも忘れて呆然とする。

ま、待って、今、この人。私にキス、した?

「今度役職名で呼んだら口にするからな?」
満足そうに微笑んで彼が私から離れた途端、エレベーターの扉が開いた。

違う意味で腰が抜けそうな私を綺麗な笑顔で笑いながら、彼は絡めた指を引っ張って歩きだす。
その笑顔すら色香が漂っているなんて反則もいいところだ。のぼせたみたいに真っ赤な顔のまま、私は彼の広い背中を睨みつけた。
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