独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
そんな超がつくほどエリートな彼氏と二年ほど交際している彼女には、結婚話も出ているらしい。百六十五センチメートルの身長に卵型の綺麗な輪郭は周囲の目を引く。

私とは正反対の社交的な性格で、歯に衣着せぬ言い方も彼女がすると嫌味にならない。私がするとただの僻みか文句にしかとられかねない。

そんな一見共通点のないような私たちだけど、実はとても仲が良い。入社式で隣の席に座ったことがきっかけだった。表情の変化に乏しく、自分の感情を素直に表現することが苦手な私を誰より理解してくれる、大切な親友だ。

「おはよう、梓」
挨拶を返すと、梓が軽く目を見開く。

「ちょっと橙花、コンタクトはどうしたの? なんで黒縁眼鏡なの?」
「昨日、本を読むのに夢中になって夜更かしをしてしまったの。今朝、目が充血していたからやめたの。一応バッグには入れてある」
正直に理由を伝えると、梓がふうと息を吐いた。
「そう、大丈夫なの? 橙花は目が大きくて綺麗なんだから、コンタクトのほうが絶対に似合うのよ。私の助言が無駄になったのかと冷や冷やしたわ」

「眼鏡のほうが楽なんだけどね……」
ぼそりと私が呟くと、キッと睨まれた。

「もう、またそんなこと言って。少しは外見を磨くことに興味をもちなさい。紫さんを見習いなさいよ」
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