独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
大声を出した私に、姉が驚いた顔を向ける。
「橙花ちゃん?」
「わかってるの、わかってる。とんでもない契約をしたって自覚もあるの」

はあ、と溜め息を吐きながら、姉に私は歯切れ悪く小さな声で話す。
「違う世界を見たかったの。真面目で融通がきかなくて型通りの毎日から少し脱け出したかった。恋愛をしたこともなくて、恋すら知らない、プライドだけが高い私から少し変わりたかったの」

そう、最初はなんて突拍子のないことを言う人なんだろうと呆れた。自分のことしか考えていない、強引で傍若無人で自分勝手でありえない、と思った。

それでもその強引さと意思の強さがまぶしかった。
私は真面目と言われるけれど、ただそれだけだ。几帳面で地味で融通がきかない。自分の意思がない。なまじ年齢を重ねてしまい、処世術が身についてしまっているだけだ。心と考え方はどんどん頑なになっていく。
その負の連鎖を止めたかったのに、自分を守るプライドだけが育ってしまった。

「彼はすごく強引で、自分勝手で呆れるくらいに傲慢で。振り回されて迷惑だし、戸惑うことばかりで腹もたつのに……楽しいの。本当に嫌だとは思えない自分がいるの」

そう、彼を本気で嫌だとは思えない。突然キスをされたことは驚いたし、憤りを感じた。誰にでもすぐにそんなことをするのかと腹も立った。それでも彼に嫌悪感は抱かなかった。

そんな私を、呆気にとられたように見つめていた姉は怒りの色を消してクシャッと表情を崩した。
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