独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「橙花ちゃん、ごめんね、そんなに色々悩んでいたのに私、全然気がついていなくて」
姉の弱々しい声を聞くのはいつぶりだろうか。大好きな姉にそんな顔をさせたいわけじゃないのに。

「ううん、そうじゃないの、今までの過ごし方が嫌とかそういうことじゃないの! ただお姉ちゃんやお兄ちゃんが羨ましかっただけなの」
ああ、なんてみっともないんだろう。いい歳をして兄や姉が羨ましいだなんて。そんな恥ずかしい心境を吐露してしまうなんて。

「羨ましい?」
姉がキョトンとした顔をする。
「……お姉ちゃんは小さい頃から可愛くて、みんなの憧れで。お兄ちゃんは自由でカッコよくて。でも私はふたりみたいにはなれなくて」

自虐的な言葉しか出てこない。自分の努力の足りなさも頑張りが足りないこともよくわかっている。
姉のように女子力を磨くこともせず通り過ぎてきたのだから。羨むだけでは何も変わらないことなんて理解している。ただ努力しても、姉には到底かなわない。

私にできたのはひたすら真面目ないい子としてふるまうことのみ。姉とは違う自分を演じることだけだった。

兄は男性だったせいか、そういう面では比較されることは少なかったけど、それでも兄の奔放さにも憧れていた。もちろんふたりの要領のよさにも。本当はそんな風に人を羨んでばかりの自分が一番嫌いだった。

恋愛なんて興味がない、恋なんてしない。ひとりで生きていく、そう思っていたのに心の奥では恋愛に一生懸命になっている姉や周囲の女の子が羨ましかった。可愛く着飾る姿が羨ましかった。

私も本当はそのひとりになりたかった。
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