独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
全力で否定する。
私があの強引で失礼な副社長を大事なわけがない! 

昨日の出来事が再び頭を掠める。 

「橙花ちゃん、顔が赤いわよ。その顔、蒼には見せられないわね。血相変えて彼を締め上げに行きそう」
ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべる姉。反射的に頰を押さえる私。

そうだ、お兄ちゃんのことをすっかり忘れていた!
「お、お姉ちゃん、お兄ちゃんはこのこと……」 
狼狽える私に姉は余裕の笑みを浮かべる。

「大丈夫、言わないわ。それに蒼なら今朝早くに出掛けたわ」
姉の台詞にほっと胸を撫でおろす。

「ねえ、彼氏に私の代理婚約を教えてもらったってどういうこと?」
ふいに頭に浮かんだ疑問を口にする。

「ああ、それはね」
姉が私の問いに返答しかけた時、部屋のドアをノックする音が響いた。

「紫さん? 橙花さんは大丈夫? さっきから大声が……」
低い、どこかで聞いたような男性の声が聞こえた。突然の男性の声に硬直する。

「大輝くん、大丈夫よ。ちょっと待ってね」
姉がドア越しに大きな声で応答する。姉は私を一瞥して、さらに付け加える。

「橙花ちゃんを連れて、もう少ししたらリビングに行くから待っててくれる? ごめんね」
うっとりしてしまうくらいに優しく甘い姉の声に驚く。

「わかった。待ってるよ」
幸いなことにそれ以上の詮索もせず、ドアを押し開けることもなく、その男性は離れていったようだ。

「お、お姉ちゃん、今の人、誰⁉ なんで家に男性がいるの⁉」
私は軽くパニックになる。

「言ったでしょ、デートの途中で帰ってきたって。色々聞きたかったし、橙花ちゃんに確認したかったから一緒に来てもらったの。婚約のことを教えてくれたのも大輝くんよ」
私とは違い、落ち着いて話す姉。
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