独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「おはようございます!」
梓の小言の途中で、可愛らしい女の子の声が部内に響いた。出社してきたのは入社二年目の後輩、堀江 千夏(ほりえ ちなつ)ちゃんだ。
肩までの緩いパーマをかけた明るい茶色の髪に、口元の黒子が可愛らしい。これまた私とは真逆な外見で、総務部のアイドルになっている。
「橙花さん、梓さん、おはようございます」
にっこりと輝く笑顔で彼女は私の隣の席に着く。
入社早々、たくさんの男性社員に声をかけられた千夏ちゃんだけど、外見だけで判断する男性に興味はありません、と見事にすべての誘いを突っぱねたことは語り草になっている。軽そうな見た目に反して、とても真面目に業務に取り組む後輩なのだ。
「もう、橙花さん! 今日こそ掃除は私がしますって昨日申し上げたのに!」
机の上を見てすぐに、頰を膨らませて抗議する、その仕草もとても愛らしい。
「たまたま早起きしちゃったからよ、また明日お願いするから」
絶対ですよ、と言いながら彼女は給湯室に向かう。
無愛想と有名な私を、彼女はなぜか先輩として慕ってくれる。梓曰く、わかる人には私の魅力がわかるらしい。そもそも私に魅力があるとは思えないのだけれど。
「相変わらず可愛い後輩ね。橙花、この健康診断の申込書、お願いね」
ここにやってきた用件を思い出したように梓が私に紙を差し出した時、突然やってきた営業部長に呼ばれた。心得たように申込書を私の机に置いて、梓は肩を竦めながら踵を返す。
私は返事をして、課長の机に向かう。課長の机の隣に置いてある椅子に腰かけて、太った体を揺すりながら営業部長が口を開く。
「都筑さん、今日はハーモニーガーデンに行ってくれないか」
深い皺の刻まれた四十代後半の井出(いで)営業部長は、ワンマンで出世欲が強いと専らの評判だ。
梓の小言の途中で、可愛らしい女の子の声が部内に響いた。出社してきたのは入社二年目の後輩、堀江 千夏(ほりえ ちなつ)ちゃんだ。
肩までの緩いパーマをかけた明るい茶色の髪に、口元の黒子が可愛らしい。これまた私とは真逆な外見で、総務部のアイドルになっている。
「橙花さん、梓さん、おはようございます」
にっこりと輝く笑顔で彼女は私の隣の席に着く。
入社早々、たくさんの男性社員に声をかけられた千夏ちゃんだけど、外見だけで判断する男性に興味はありません、と見事にすべての誘いを突っぱねたことは語り草になっている。軽そうな見た目に反して、とても真面目に業務に取り組む後輩なのだ。
「もう、橙花さん! 今日こそ掃除は私がしますって昨日申し上げたのに!」
机の上を見てすぐに、頰を膨らませて抗議する、その仕草もとても愛らしい。
「たまたま早起きしちゃったからよ、また明日お願いするから」
絶対ですよ、と言いながら彼女は給湯室に向かう。
無愛想と有名な私を、彼女はなぜか先輩として慕ってくれる。梓曰く、わかる人には私の魅力がわかるらしい。そもそも私に魅力があるとは思えないのだけれど。
「相変わらず可愛い後輩ね。橙花、この健康診断の申込書、お願いね」
ここにやってきた用件を思い出したように梓が私に紙を差し出した時、突然やってきた営業部長に呼ばれた。心得たように申込書を私の机に置いて、梓は肩を竦めながら踵を返す。
私は返事をして、課長の机に向かう。課長の机の隣に置いてある椅子に腰かけて、太った体を揺すりながら営業部長が口を開く。
「都筑さん、今日はハーモニーガーデンに行ってくれないか」
深い皺の刻まれた四十代後半の井出(いで)営業部長は、ワンマンで出世欲が強いと専らの評判だ。