独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
5.不本意な時間
連れてこられたのはこれまた豪奢な二棟のタワーマンションの前。その車寄せ場所で大輝さんの車から降ろされた。

「ここって」
どこ、と私が尋ねる前に大輝さんが口を開く。

「兄貴の自宅マンション。部屋は最上階の二十五階。ちなみに俺の家は隣の棟の最上階」
尋ねたかったことを全部あっさりと言われる。

最上階って! 確かに首が痛くなるほどの高さだけど、しかも弟は隣の棟ってどういうことなの! 一緒に住まないの⁉

目の前にそびえたつ真っ白な二棟の建物。
陽の光を浴びてバルコニー部分の薄いブルーのガラスがキラキラと輝いている。最上階はもはやここからは何も見えない。広い車寄せは石畳になっている。マンションのエントランス部分には色とりどりの花が咲き乱れ、手入れされた植栽がそこかしこに見える。

「車を置いてくるから先に入ってて。橙花さんは兄貴の部屋に行きなよ」
そう言って彼は姉と私をそこに置いて去っていく。
姉は全く動じることなく歩きだす。

「お、お姉ちゃん、ここって……」
眼前の重厚な焦げ茶色の大きな自動ドアはもちろんオートロック。それが鍵をかざすことなく静かに開く。ドアの向こうに広がる、開放的な空間。高い天井に長い廊下。向かって左一面に広がるガラスウォールからは明るい陽射しが射し込む。

そこから見える植栽はとても見事でなんと小さな川まである。自動ドアと同じ色の天井と壁が一体感を醸し出す。そこかしこに置かれた応接セットは白の革張りだ。どこまでも豪華すぎる空間に声が出ない。
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