独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
フロアに立ってみて、姉が私に部屋番号を言わなかった理由がわかった。
このフロアには部屋が一室しかない。
その事実に驚愕しながら、玄関のインターホンを押すべきか迷っていると、目の前の部屋のドアが開いた。

「遅い」
現れたその人は開いた玄関ドアに凭れながら、眉間に皺をよせて私を睨む。ブラックジーンズに真っ白のシャツ。初めて目にするくだけた装いにドキンと鼓動が跳ねた。

「副社……煌生さん?」
言いかけた役職名を慌てて呑み込む。

「残念、間違えたらお仕置きができたのに」
口角を上げてクスッと彼が笑う。彼の言葉に一瞬止まっていた思考が動き出す。

私、怒ってたんだった! 勝手にキスされて、謝罪もないし、そのうえ呼び出されて!

キッと彼を睨みつける。
「私、この間のこと許してないんですけど!」
「この間のことって、キス?」

スッと副社長が私のうなじに手を伸ばして長い指で触れる。先ほど自宅で姉がまとめ上げてくれたものだ。後れ毛にそっと触れる。

ドキン! 
この人に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの音が心臓から響く。触れられた場所が瞬時にカッと熱をもつ。

「へえ、まとめるのも似合うな。誰がやった?」
触れる指は温かくて優しいのに言葉を紡ぐ声はとても低い。どうしてそんなに不機嫌な声をだすのかわからない。

「お、お姉ちゃんが」
返答した途端、彼の声の調子が普段のものに戻る。

「服も?」
私の上から下までを視線で追いながら、彼が続けて言う。私が頷くと、彼は綺麗な目を嬉しそうに細める。
「やっぱりよく似合っている」

そんな嬉しそうな表情をしないで。私にはその理由がわからないから。違う、私は怒っているのに。
そのことを忘れそうになってしまう。

「私、怒っているんですけど!」
拗ねた子どものように同じようなことばかりを言ってしまう。
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