独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「なんで大輝?」
背筋がゾクリと震えるくらいの低い声で問われる。

「あ、あ姉が大輝さんとデートしていたので」
しどろもどろになって答える。

「アイツに関わるなって言わなかった?」
私の顔を覗きこみながら、彼が私を睨む。

「そ、そんなこと言われても!」
不機嫌の理由が分からず言い返す。彼は綺麗な眉をしかめる。

「橙花の警戒心がたりなさすぎるんだよ」
そう言って彼は私を抱きしめる腕に力をこめる。

「頼むから少しは言うことを聞いて。橙花は俺の婚約者だろ」
さっきまでの不機嫌な声とは一転。切なげな声と目が真っ直ぐに私を射抜く。

「……本物じゃありませんから」
必死の矜持で彼に言い返す。

「じゃあ本物になる?」
その言葉に息を呑む。言われた言葉が理解できない。

「何、を言って、るの?」
途切れ途切れになった私の声を彼が拾う。もう丁寧な言葉は抜け落ちている。

「そのままの意味だけど? 契約だってしてるし、俺は橙花を気に入ってる。橙花に異論がなければ俺の婚約者になればいいだろ?」
私の両頰を大きな両手で掬い上げて、彼が私を紅茶色の瞳で見つめる。その目は真剣で冗談を言っているようには見えない。

「どうして……?」
カラカラになった喉から絞り出せた声はそれだけだった。思考がまとまらない。

「さあな、答えは自分で考えろ」
薄茶色の瞳を優しく眇めて、彼が返答する。

まったく意味がわからない。
代理婚約者になれと言ったり、いきなり本物になれって言ったり。ただの気まぐれ? ただの暇つぶし? 
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