独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「ハーモニーガーデン、ですか?」
思わず聞き返す。

ハーモニーガーデンは設楽ホールディングスが最近参入したウェディング事業の一環を担うもので、今年オープンさせたばかりのゲストハウスだ。

突然の異分野への参入に業界を驚かせた。ウェディング事業は社長の強い希望だったという噂を耳にしたことがある。
このゲストハウスは日比谷に近い場所にあり、白く大きな邸宅に緑豊かな庭園が人気を集めている。

ウェディング事業部が立ち上がった時、グループ全体で新事業異動希望者の社内公募が行われた。もちろん各事業部長からの推薦も多かったが、我が社の営業部からも数人の社員が移籍した。
営業部に同期の友人がいる私は、その縁あってか以前にハーモニーガーデンのスタッフに病欠が相次いだ時、裏方スタッフとして手伝いを頼まれたことがあった。

「そうなんだ。家庭内の事情やご主人の転勤でスタッフの退職が相次いでしまったらしく、今ぎりぎりの人員らしくてね。今日はそれに加えてスタッフのひとりが病欠になってしまったそうなんだ。都筑さんの以前の働きぶりは評判でね、今回名指しで頼まれたんだ」
まるで自分の功績だと言わんばかりに、井出部長は誇らしげに言う。

「いえ、そんな急に言われましても、都筑さんにも仕事が」
部下思いの課長が私を庇ってくれる。確かに急な話だ。今日のうちに済ませなければいけない仕事がいくつもある。

「そんなもの、ほかの手の空いている人間に回しなさい。こちらのほうが優先だろう」
明らかに総務の仕事を馬鹿にした口ぶりにうんざりする。その気持ちが顔にでていたのか、私の顔を見た彼の表情が少しひきつる。
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