独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
噛みつくように言い返す私の言葉に彼が破顔する。
その屈託のない笑顔に再び鼓動が暴れだす。そのうち私の心臓が壊れてしまいそうだ。

「答えなんて簡単だろ。橙花ほど特別に想う女はいない」

至極当たり前のようにそう言って、彼は私の額にそっとキスをした。意地悪な言葉とは対照的な優しい仕草と温かな感触。その言葉をどこまで信じていいのかわからない。

広すぎるリビングに敷かれた白いラグ。そのうえに置かれた黒の立派な革張りのソファはコの字型に配置されている。複雑な刺繍が施されたお洒落なクッションがいくつか無造作に置かれている。

私はソファの真ん中に座るように言われ、彼はリビングに隣接されたカウンターキッチンに入っていく。
まさかの副社長自らが私に紅茶を淹れてくれた。驚愕の表情で彼を見るとそれぐらいするだろ、と不機嫌な声が返ってきた。

恐縮しながらお礼を述べる。彼は紅茶党なのかな、とふと思う。そんなことも知らない私が婚約者だなんて言えるのだろうか。

「あ、あのっどうして姉との交際に反対なの?」
ふたりの時に敬語を使うなとさらに命令が増えたので、気をつけながら話しかける。

「アイツらが本気だとどうしてわかる?」
質問に質問で返された。グッと言葉に詰まる。

「……ふたりでいる姿はすごく自然だったし、お互い想いあってるようにみえたから」
「そんなのいくらでも演技出来る」
右隣に腰をおろした彼が、紅茶を優雅な所作で飲みながら言う。

「橙花も代理婚約を引き受けた時にできてただろ」
付け加えられた言葉に胸がズキリと痛む。さっきから私はおかしい。どうしてこの人の言葉にこんなに一喜一憂してしまうのだろう。
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