独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「……私はできていない。あなたへの態度は演技じゃない」
全部が全部演技じゃない。本当にドキドキしてどうしていいかわからないことばかりだ。完璧に演技ができていたら、こんなに悩んだりしない。あなたの笑顔に喜んだりしない。
弱々しい私の声にハッとしたのか、慌てた様子で彼が乱雑にカップを置く。カチャンと甲高い音が響く。
「橙花が全部演技してるなんて思ってない。だからそんな顔するな」
そう言って彼は私を困ったように見つめる。
そんな顔って何? どうしてそんな目で私を見るの?
私は黙って彼を見つめ返す。ほつれた髪を掬って耳にかけてくれる彼の骨ばった指の感触に鼓動が跳ねる。距離が近すぎて頰の熱がさっきから上がりっぱなしだ。
「あなたには誠実でいたいって思ってる、から」
不意に口から滑り出た私の言葉に、彼は驚いたように目を見開く。それから優しく問い返す。
「へえ、なんで?」
「はっきり言えないけど、あなたを大事にしたいって思うから」
彼から視線を外し、俯きがちに話す私に彼が小さく言う。
「あと、一歩だな」
「何?」
思わず顔を上げる。
「なんでもない。とにかく大輝のことはもう少し様子を見る。別に頭ごなしに反対しているわけじゃない。あのふたりは今まで交友関係も派手だったし、交際期間もいつも短い。いつもと同じパターンじゃないとはまだ言い切れない。盛り上がって結婚してすぐ離婚なんてことになってみろ。会社のイメージダウンは避けられない」
……そういうことも考えるんだ。当人同士さえよければいいとかそういうわけにはいかないんだ。そうだよね、だからこそ代理婚約者をこの人は最初に必要としていた。彼には自分が負うべき責任がきちんと見えている。
これ以上彼を説得できないと思った。
全部が全部演技じゃない。本当にドキドキしてどうしていいかわからないことばかりだ。完璧に演技ができていたら、こんなに悩んだりしない。あなたの笑顔に喜んだりしない。
弱々しい私の声にハッとしたのか、慌てた様子で彼が乱雑にカップを置く。カチャンと甲高い音が響く。
「橙花が全部演技してるなんて思ってない。だからそんな顔するな」
そう言って彼は私を困ったように見つめる。
そんな顔って何? どうしてそんな目で私を見るの?
私は黙って彼を見つめ返す。ほつれた髪を掬って耳にかけてくれる彼の骨ばった指の感触に鼓動が跳ねる。距離が近すぎて頰の熱がさっきから上がりっぱなしだ。
「あなたには誠実でいたいって思ってる、から」
不意に口から滑り出た私の言葉に、彼は驚いたように目を見開く。それから優しく問い返す。
「へえ、なんで?」
「はっきり言えないけど、あなたを大事にしたいって思うから」
彼から視線を外し、俯きがちに話す私に彼が小さく言う。
「あと、一歩だな」
「何?」
思わず顔を上げる。
「なんでもない。とにかく大輝のことはもう少し様子を見る。別に頭ごなしに反対しているわけじゃない。あのふたりは今まで交友関係も派手だったし、交際期間もいつも短い。いつもと同じパターンじゃないとはまだ言い切れない。盛り上がって結婚してすぐ離婚なんてことになってみろ。会社のイメージダウンは避けられない」
……そういうことも考えるんだ。当人同士さえよければいいとかそういうわけにはいかないんだ。そうだよね、だからこそ代理婚約者をこの人は最初に必要としていた。彼には自分が負うべき責任がきちんと見えている。
これ以上彼を説得できないと思った。