独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「アイツには幸せになってほしいって、俺なりに思ってるんだ。結婚してすぐに離婚なんてことになったら、ふたりが傷つくだけだろ」

ほんの少し寂しそうな微笑みに、私は思わず彼の左手をギュッと握った。彼は驚いた表情を浮かべる。この人はふたりのために悪役を演じていることを知る。

「その気持ちをそのまま伝えてあげたら? 今までの行いが悪かったから、交際を全否定されてるって大輝さんは思ってるよ」
おずおず話す私に彼はそのうちな、と言う。

この人は私が思っている以上に温かな人なのかもしれない。ほんの少し感情を素直に表すのが苦手なだけで。外見も肩書もこれほどまでに完璧で近寄りがたいから横暴だって思ってしまうけれど本当の彼はちがうのかもしれない。

この人のことがもっと知りたい。この人の傍にいたい。直感的にそう思った。

「その件も含めて、橙花は俺とここに住めよ」
いきなり調子が戻った彼が言う。突然の申し出に私は首を傾げる。

「どの件?」
はあ、と彼は頭を抱えて私を胡乱な目で見る。本当にどんな表情をしていてもこの人は様になる。

「橙花の姉と大輝の仲を俺に認めさせる件。橙花が俺の本物の婚約者になるために考える件」
淡々と業務内容を伝えるような口調で言われる。そんな威圧的な言い方をしなくてもいいのに。

「どうしてそのために一緒に住む羽目になるのよ⁉」
素っ頓狂な声を上げる私に、彼は当然とばかりに言い返す。

「お互いのことを知るため、だろ?」
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