独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「あ、いや。あちらでは挙式を控えた方々が待っているわけだろう。急ぎの仕事があるのはわかるが、これから人生の新しいスタートを切るカップルのために、ひと肌脱いではもらえないかね」
とってつけたように言う部長。
周囲で聞き耳を立てている社員はそれが本心ではないことをよくわかっている。親会社にいい顔をして、自分が恩を売りたいだけなのだと。
心の中で大きな溜め息を吐いて改めて課長の顔を見る。ここで私が首を縦に振らないと課長の立場が悪くなる。
「わかりました。伺います。その代わり、先日営業部から託されました備品の発注の件につきましては猶予をいただきますが、よろしいですか?」
たいしたことのない件もすべて至急扱いでまわしてくる部長にそう伝えると、彼は苦虫を噛み潰したような表情で頷く。
「まあ、仕方ないね。いいだろう」
「それでは伺います」
私の返答に満足したのか、先方に連絡をしなければと部長はご機嫌な様子で総務部を出て行った。
課長は悪くないのに、私に申し訳なさそうに謝罪してくれた。千夏ちゃんは急ぎの仕事を快く引き受けてくれた。もちろん井出部長への悪態はしっかりついて。
明るい紺色の制服を地下にあるロッカールームで着替えて、バッグを持って外へでた。今日は直帰でかまわないと課長に言われていたので、忘れ物がないかしっかり確認をする。
平日の午前中に外出することは内勤の私には珍しい。まだまだ夏の装いに身を包んだ人が足早に通り過ぎていく。強い陽射しにうっすらと額に汗をかく。混雑した電車に乗り込んで、有楽町駅で降りる。
商業ビルが近くに多いせいか、買い物を楽しむ人の姿が目立つ。その人たちを横目に先を急ぐ。
淡いベージュのブラウスに黒いくるぶし丈のパンツ、黒のローヒールパンプスといった装いの私の姿が、通り過ぎるオフィスビルのガラスに映りこむ。地味な自身の姿を一瞥して足を進める。
とってつけたように言う部長。
周囲で聞き耳を立てている社員はそれが本心ではないことをよくわかっている。親会社にいい顔をして、自分が恩を売りたいだけなのだと。
心の中で大きな溜め息を吐いて改めて課長の顔を見る。ここで私が首を縦に振らないと課長の立場が悪くなる。
「わかりました。伺います。その代わり、先日営業部から託されました備品の発注の件につきましては猶予をいただきますが、よろしいですか?」
たいしたことのない件もすべて至急扱いでまわしてくる部長にそう伝えると、彼は苦虫を噛み潰したような表情で頷く。
「まあ、仕方ないね。いいだろう」
「それでは伺います」
私の返答に満足したのか、先方に連絡をしなければと部長はご機嫌な様子で総務部を出て行った。
課長は悪くないのに、私に申し訳なさそうに謝罪してくれた。千夏ちゃんは急ぎの仕事を快く引き受けてくれた。もちろん井出部長への悪態はしっかりついて。
明るい紺色の制服を地下にあるロッカールームで着替えて、バッグを持って外へでた。今日は直帰でかまわないと課長に言われていたので、忘れ物がないかしっかり確認をする。
平日の午前中に外出することは内勤の私には珍しい。まだまだ夏の装いに身を包んだ人が足早に通り過ぎていく。強い陽射しにうっすらと額に汗をかく。混雑した電車に乗り込んで、有楽町駅で降りる。
商業ビルが近くに多いせいか、買い物を楽しむ人の姿が目立つ。その人たちを横目に先を急ぐ。
淡いベージュのブラウスに黒いくるぶし丈のパンツ、黒のローヒールパンプスといった装いの私の姿が、通り過ぎるオフィスビルのガラスに映りこむ。地味な自身の姿を一瞥して足を進める。