独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
自分に問いかけても答えが見当たらない。
まさか、という思いが湧き上がる。一般的にこんなに短い時間で恋に落ちるものなのかわからない。

私は恋をしたことがない。恋という感情を知らない。姉がこれまで話してくれていたことはいつも右から左に聞き流していた。そんなことは私の身の上には起こらない、そう思っていたから。

姉のように可愛げもなく、女子力だって高くもない。そんな私が恋をするなんておかしい。
そんな風に決めつけていた。

「好き、っていう感情がよくわからないよ……」
小さな声で呟くように話す私に、姉は穏やかに笑んだ。

「橙花ちゃん、副社長に会いたいと思う?」
唐突に姉が尋ねる。

「会いたいって、別に会いたくなんかないよ! 傲慢だし私の予定なんてお構いなしだし! ペースは崩されるし!」
顔に一気に熱が集まる。

「でも呼び出されたら会いに行くでしょ? 顔を見たくないって思う?」
そんなことは思わない。会いに行きたくない、とは思うのに今日のように抗えない自分がいる。でもそれはきっと契約があるから。それだけだ。

フルフルと首を振る私に、姉が言葉を続けた。
「一日にどれだけ副社長のことを考える?」
「そんなのいつだって考えてるよ! あの人、無茶ばっかり言うんだから! 考えないほうが無理だよ!」
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