独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「あ、あの、今日は何かあるんですか?」
暴れだす鼓動を無視するように、私は必死で言葉を紡ぐ。今日の予定はどうなっているのだろう。

「いや、特に何も決めてない。橙花は何かしたいこと、行きたいところはあるか?」
彼がフッと優しい眼差しを私に向ける。

行きたいところ?

「特にないですけど、どうしてですか?」
用事がなくてもお互いのことを理解しあうために、一緒に過ごそうと決めたことは覚えている。彼が半ば強引に決めてしまったことだけど、そのことで私の意見を聞かれるなんて思わなかった。

「婚約者の好みを知ることは大事なことだろ? 俺は橙花のことが知りたいから」
照れもせず、彼は当たり前のように言い放つ。

ドキンッ。
既に暴れだしている鼓動が、一際大きく跳ねた。

どうしてこの人は、こんなにも私のことを気にかけるのだろう。本物の婚約者になるかと以前、私に言ったことは本気なのだろうか。

はぐらかすことが何よりも上手で、私より何倍も恋愛経験値のあるこの人の本心を私に探ることはできない。

ねえ、からかってるの?
ねえ、どこまで本気なの?
ねえ、どうして私に構うの?
ねえ、どうして本物の婚約者にならないかなんて言うの?

聞きたいことはたくさんあるのに、どれひとつ言葉にできない。
今までこんな風に誰かに対して言葉がでないことはなかった。

物怖じせずに気持ちを伝えることができたのに。どうしてこの人が相手だとこんなにも喉にひっかかってしまうんだろう。こんなにも反応が気になってしまうんだろう。
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