独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「……敵わないな」
そう言ってクシャリと自身の髪をかき上げる。その耳が薄っすら赤く見えるのは気のせいだろうか。

「こ、婚約者ですからっ」
顔を火照らせながら言い返す。形勢逆転だ。
私の台詞に彼がブハッと噴き出した。

「いい心がけ。さすが俺の自慢の婚約者。ああ、それといい加減に敬語はやめろよ」
軽く屈んだ彼が、私の耳元で妖しく囁く。色香のこもった低音が耳朶を震わせる。

「ぜ、善処します……」
その声にビクッと肩が跳ねる。

「じゃあ手伝って、橙花」
思わず見惚れてしまいそうな艶やかな笑顔で、彼が私の頬にキスをしながら言った。小さくありがとう、といいながら。

最近の彼は私に触れることがとても多くなったと思う。そしてそのことが嫌じゃない自分がいる。むしろ触れられて嬉しいと思ってしまう。

手伝う、とは言っても私にできることはそれほどない。アンケートの雛形は彼に確認を取りながら作成した。それからは彼に言われた資料を探したり、頼まれた部分をまとめてパソコンに打ち込む。散らばった書類を片付け、彼にお茶を淹れる。

また、結婚式のサービスについて、思いついたことを彼に話す。
彼は私の意見を茶化したり、否定することもなく真剣に聞いてくれた。そしてそこから気づいたことや疑問に感じたことを、お互いに指摘して言い合う。

彼の頭の切り替えは早く、私はそのペースにのせられるように想像を膨らませる。話しているだけで色々な空想が湧き上がり、こんなことは初めてでとても有意義な経験だった。彼も少年のように紅茶色の瞳を輝かせていた。
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