独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
一瞬向けられる、熱を孕んだ視線。その強さに動けなくなる。彼が私の右手の甲に唇を落として、何事もなかったかのように彼は私を玄関まで誘う。

ドキンドキンドキン。
鼓動がうるさい。言われた言葉が消化できなくて口がきけなくなる。唇が落とされた場所が火傷をしたみたいに熱い。

茫然と彼に手をひかれて玄関を出た私を、彼は手を繋いだまま、蠱惑的に見つめる。
そんな目で見ないでほしい。綺麗な紅茶色の瞳に吸い込まれそうだ。

お願いだから私に期待をさせないでほしい。
あなたが私を本気で欲しがっていると勘違いをしそうになってしまう。

この胸を締めつける甘い痛みも張り裂けそうな鼓動が、私の本心を晒しそうになるから。気づきたくない想いに気づいてしまいそうになるから。

「なぁ、これはいらないのか?」
まるで少年のように、長い睫毛に縁取られた瞳をキラキラさせながら、彼が私に問う。
「……オムライスにコンソメは要りません」
苦笑しながら私は返答する。

彼とやって来たこのスーパーは最近オープンしたらしい。規模も大きく、綺麗な二階建ての建物は明るい照明に照らされている。店内からは陽気な音楽が流れ、時間帯のせいもあり、大勢の買い物客で賑わっていた。

豊富な品揃えに明るい雰囲気、広々とした陳列スペースは買い物がしやすい。
そもそもスーパーが珍しいのか、先程から彼は子どものようにはしゃいでいる。その姿は大企業の副社長の姿には見えず、可愛らしささえ感じてしまう。

思わずクスリと笑みを漏らすと、彼が怪訝な顔をする。
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