独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「……何?」
「いえ、楽しそうだなと」
可愛らしいとはさすがに言えず、誤魔化す。
彼はバツが悪そうな顔をしてそっぽを向く。

「……橙花がいるから」
聞こえたのは空耳だったのか。

小さな呟きが耳を掠めていく。それを聞き返す間もなく彼は違う言葉を紡ぐ。
「ケチャップ、買いに行く」
私は小さくはい、と返事をする。

何が食べたいかを尋ねた私に、彼はオムライスが食べたい、と言った。
意外すぎて驚く私に彼は耳と頰を赤くしていた。
好きなんだ、悪いかとぶっきらぼうに言い捨てながら。

女性客が多いスーパーを歩く彼はとても目立つ。多くの来店客が彼をチラチラと見ている。
それはそうだろう。

高い身長。長い足。人目をひく美麗な顔立ち。何気ない仕草からも滲み出る品格。皆、彼が芸能人か何かのように見つめている。

そして彼を見た後で私に向けられる視線が痛い。絶対に釣り合わない、そう言われている気がして辛い。
今更ながら自分の地味な容姿が嫌になる。姉のように華やかだったら傍を歩く彼も誇らしかったんじゃないか、そんなことを考えてしまう。

卑屈になりたいわけじゃないのにどんどん後ろ向きな気分になってしまう。
どうしたんだろう。こんなのは全然私らしくない。

考えてみればこんな風に長い時間、ふたりきりでこの人の横を歩いたことがない。いつも柿元さんがいたり、車で移動することが多かったから。そのせいか、やっぱり落ち着かない。

カートを片手で器用に押す煌生さんは私の手を繋いだまま、離そうとはしない。長い指が私の指に絡みついている。

羞恥や自分への卑屈さから俯いてしまう。私に彼はお構いなしに距離を縮めてくる。小さく身じろぎをして、少しでも離れようとする私の手を彼はがっちりと絡めなおす。
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