独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「うまい!」

目の前で煌生さんはとても嬉しそうに笑う。その無邪気な様子がとても可愛らしく思えてしまう。立派な年上の成人男性に可愛いは失礼かもしれないけれど。

無駄なくらいに広い六人がけの木製テーブル。その真ん中に彼と私は向き合って座っている。

スーパーで食材を手にとっては、はしゃいでいた笑顔とはまた別のあどけない笑顔。私が作ったオムライスを彼はとても喜んで食べてくれている。
なぜか彼が買いたがった、コンソメを使って作ったコンソメスープも気に入ってくれたようだ。

時間も時間だし、明らかに新品と思われる炊飯器を使って、急いで米を炊いた。
仕事をしていてください、と何度言っても彼は私の隣にいて、私が調理する姿を見たり、手伝ってくれた。意外なことに彼は器用で、包丁さばきはなかなかのものだった。

今日は彼の色々な表情を見ている。私の知らない彼の姿。きっともっとこの人にはたくさんの表情があるのだろう。

一見、完璧で冷酷にさえ見える美貌の副社長。恐ろしいほど切れもので、冷静に状況を判断できる優秀すぎる頭脳。なのに目の前にいるこの人は、まったくそんな堅苦しい人物には見えない。

最初は苦手で仕方なかった。一緒にいる時間はカルチャーショックの連続で疲れることばかりだった。契約だと決めたのだからと言い聞かせて過ごしてきた。雲の上の立場にいる人の隣は落ち着かないし、傲慢で強引でどうしようもない人だと思っていた。

すべては彼の仕事がうまくいくための演技。それは間接的に子会社に勤める私のためにもなる。そう思っていたのに。
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