独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
いつからだろう。
この人の言葉が胸に刺さるようになった。温かな仕草が私を落ち着かなくさせた。優しい表情に切なくなった。

『副社長』としてみていたこの人を、ひとりの『設楽煌生』という男性としてみるようになってしまった。

ああ、私。この人の本物の婚約者になりたい。
それは私の胸の奥から衝動のようにこみ上げてきた感情。

この人の傍にいたい。この人の色々な表情をもっと見たい。
自分でも驚くほどの強い願い。

私はこの人が好きだ。人として異性として。
そうか、この感情が恋、なんだ。納得した途端、心の中に温かい感情が湧き上がる。

いつかの姉の言葉が頭に響く。
『込み上げてくる気持ちがあるわ』

曖昧に言われていた言葉のその意味がよくわかる。
『好きな人とはずっと一緒にいたいわ』

私もこの人の傍にずっといたい。この人のすべてを傍で見つめたい。この人を独り占めしたい。湧き上がる自分の想いの深さに驚く。

「橙花? 食べないのか?」
手が止まっている私を訝しみながら話しかける彼。

「えっ、あっ、あの。わ、私、婚約者になりたくて!」
突然話しかけられて私は思わず、考えていた願望を口に出してしまった。

彼が薄茶色の瞳を見開く。
口にしてしまったことの重大さに気づいた途端、サアッと顔から血の気がひく。

こんな風に言うつもりはなかった。こんな自分の気持ちに気づいてすぐに。恥ずかしさと気まずさで下を向く。顔を上げられない。どんな顔をして彼に向き合えばいいのかわからない。情けなさも込み上げてきて泣きたくなる。
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