結婚願望のない男
「…そういえば、島崎とは結局どうなったんだ?告白されてたんだよな?」
「あ…彼は私の気持ちを察してたみたいで。ちゃんと山神さんと話すようにって言ってくれました。ああ~、でも、ちゃんと断ったことにはなっていないかも。私も改めて、彼と会話してみることにします」
「ああ、そうしてくれ。あいつにも迷惑かけたな」
「あの、一つだけいいですか?島崎くんにはすごくお世話になったし、今回の案件で頑張ってくれたので、先輩として彼に肉を奢ってあげたいんですけど…。もう一人、女の先輩を呼んで三人で行くので、彼と食事をしに行っていいですか?二人きりじゃなくても、さすがに島崎くんを呼ぶのに黙ってるわけにもいかないかと思って」
「んんっ?う、ん…うーん…」
山神さんが眉間にしわを寄せて、ものすごく迷った顔になる。いつも涼しげな顔の彼の、見たこともない妙な表情に思わず笑ってしまった。
「おい、だからニヤニヤするなって」
「だ、だって…山神さんのそんな顔、初めてで」
「あのな、こっちの気持ちも考えろ。あいつはあんたのことが好きなんだから、例え三人であってもそんなやつと食事なんて…。まぁでも、彼氏になったからってあんたの交友関係を縛る権利もないしな…」
しばらくブツブツ呟いていたけれど、「行って来いよ。だけど門限9時な!帰りが遅くなったら山神がブチ切れるってちゃんと島崎に伝えた上で行けよ。あと、酒に酔った姿も見せるな」と、まるで彼氏ができた娘の父親のようなことを言う。また私は笑ってしまった。
「…笑うなよ。島崎って、なんとなく女慣れしてそうな雰囲気を感じるからな…」
「…あ、それ当たってます。彼、本当にいい子なんですけど、ちょっとチャラいところはあると思います…。社内でもすごくモテるので」
「そんな男にアプローチされてたんだな、あんた…。奪われなくて本当によかった…」
そんなことを言って難しい顔をしている山神さんが可愛くてほっこりしてしまう。
(…なんだか、山神さんって…いいお父さんになりそうな気がする…。本当に彼と結婚までいけるといいな…)
「…ところで、今度から正式な彼女として、レンタル彼女の時みたいにあんたのこと遥って呼んでいいかな。敬語もやめてほしいんだけど…」
「うん。じゃあ、山神さんのことも、弓弦って呼んでいい?」
「もちろん。…俺を受け入れてくれてありがとな、遥」
「…こちらこそ。危なっかしい女で恐縮ですが、よろしくお願いします。弓弦」
こうして名前で呼び合うのは、レンタル彼女をやった時以上に照れ臭い。私と山神さん…いや、弓弦は、二人そろって顔を赤くした。