結婚願望のない男
8章 危なっかしい花嫁
弓弦とお付き合いを始めてから、一年が経った。
「…この痣、何?」
薄暗いベッドの上で私のパジャマをはぎ取った彼は、私の膝の大きな青痣に気づいたらしい。
「…あ、これは…」
見られたくないものを見られてしまった。けれどもうごまかしようがない。
「…急いでて、会社のミーティングルームでこけて、膝から着地」
「いって~…」
聞くだけで痛いと言わんばかりに、弓弦が顔をしかめる。
「一年経っても危なっかしいのは変わらないな、ほんとに」
「わ、悪かったわね!」
「当たらないように気を付けるけど、痛かったら言えよ。というかこの状態で…してもいいのか?」
「そ、それは別に大丈夫。大した怪我じゃないし…せっかくの記念日だし…」
「…じゃ、いいんだな?きつかったらちゃんと言えよ」
そう言って、彼の甘い口づけが降ってくる。
いや、口づけというよりはまるで私の唇を食べつくしてしまうかのような勢いで──。むさぼるように唇を甘噛みし、舌を潜り込ませ、口内をまさぐってくる。
「ん…っ」
いつもより激しい舌の動きに肌が泡立つ。彼の長い舌は私の舌を絡め、歯列をなぞり、吸い付いてくる。二人の唾液が混ざり合って妖しい水音が部屋に響いた。
「はぁ…、はぁっ」
いつもより激しいキスに、息が乱れるのもいつもより早かった。
「…どうした?」
弓弦はそんな私の顔を見て、にやっと意地悪く笑う。
「もう目がとろんとしてるけど…」
「だっ…て、弓弦が」
「俺のせいなのか?」
「…っ」
今度は首筋に軽くかみつかれて、体が震えた。
「じたばたするなよ、痣にあたるぞ」
彼はそう言って、私の両手首を左手で掴んでベッドに押し当てる。私の腕の動きを制限させて、無防備になった二の腕や脇のあたりに舌を這わせた。
「いや…っ!くすぐったい、ってば…!そんなところ、舐めるの…反則…っ」
私は必死で身をよじったけれど、覆いかぶさる彼から逃れることはできない。
「だから動くなって…」
彼は私の体を刺激しながらも、膝にあたらないように細心の注意を払っているようだった。私が足をバタバタさせるたび器用に避けている。こんな時でもやっぱり彼は優しい男だった。
激しい愛撫と私の膝を気遣ってくれる優しさに、私はいつも以上に感じてしまう。声を我慢できず、酸素が足りなくなって頭がぐらぐらする。
「はぁっ、はぁ…っ!どうして今日、こんな…!なんかいつもより、…、そこ、もうやめて…」
彼の舌は私の敏感なところを執拗に攻めている。体に電流が走ったみたいに、足先や指先がびくびくと震えた。
「どうして、って…。当たり前だろ、特別な日なんだから」
「ま、まだ…日付、変わってない、し…。っ、あ…っ」
「そんな細かいことを気にする余裕はあるのか。じゃあもっと激しくしてもいいな?」
「……っ!」
私は必死で首を振る。けれど、彼はそんなことおかまいなしだ。今でも十分恥ずかしい声が出ているのに、さらに大きな声が漏れてしまいそうで私は慌てて唇を噛む。
そんな私の様子を見て、「声を我慢しない」と弓弦が指で私の口をこじあけた。甘くとろけた悲鳴がこぼれ出て、私は一層羞恥に震えた。
「…っ!」
そして、わき腹や胸元を、いつもよりもきつめに吸われる。
「キスマーク…、つけようとしてるでしょ…」
「お前は俺のものだって確認してるだけ」
「だめ…だってば…!」
「外から見えるわけでもなし、いいだろ?」
「…っひゃ…!もう…っ!だ…め…うう…」
弓弦は全然言うことを聞いてくれない。きっと明日の朝鏡で見たら、あちこちに赤い痕がついていることだろう。普段の弓弦は、服で隠れて見えない場所でも気を遣って滅多に痕をつけたりしないのに。
「弓弦は…、明日有給だから、好き勝手にできるかもしれないけどっ!私は午前だけ仕事に行くんだからねっ…!起きれなかったら、一生恨むから…!」
私は荒れた呼吸の合間に抗議する。
明日は、私たちが付き合い始めてから一年の記念日だ。
本当は記念日を祝うために二人そろって有給休暇を取るつもりだったのだけど、私はどうしても仕事を終わらせることができなくて、かろうじて午後休ということになってしまった。
「…それは困るな」
「…でしょ!?」
「けど、それはそれで面白い。大事な記念日に寝坊って、いい思い出話になるじゃないか」
「~~~~!」
彼は俄然やる気が出てきたと言わんばかりに、自らの服のボタンに手をかけた。そして、そこそこに鍛えられた上半身をあらわにし、私を再度抱きしめる。
抵抗したくても、こうして彼の大きな胸板に抱きしめられると、彼の中の“男”を感じてしまってどうにも体が動かなくなる。
「変に力入れるなよ。大丈夫、ちゃんと感じれば感じた分だけ…あとでぐっすり眠れるから」
彼は熱っぽい声で囁いた。
(結婚願望がなかったから、最初は草食系なのかと思ってたけど…まったく違ったのよね。一年経っても…肉食なんだから)
私はもう、明日について考えることをやめた。
その後は、深夜までの長い長い時間、彼に翻弄されることとなる。
「…この痣、何?」
薄暗いベッドの上で私のパジャマをはぎ取った彼は、私の膝の大きな青痣に気づいたらしい。
「…あ、これは…」
見られたくないものを見られてしまった。けれどもうごまかしようがない。
「…急いでて、会社のミーティングルームでこけて、膝から着地」
「いって~…」
聞くだけで痛いと言わんばかりに、弓弦が顔をしかめる。
「一年経っても危なっかしいのは変わらないな、ほんとに」
「わ、悪かったわね!」
「当たらないように気を付けるけど、痛かったら言えよ。というかこの状態で…してもいいのか?」
「そ、それは別に大丈夫。大した怪我じゃないし…せっかくの記念日だし…」
「…じゃ、いいんだな?きつかったらちゃんと言えよ」
そう言って、彼の甘い口づけが降ってくる。
いや、口づけというよりはまるで私の唇を食べつくしてしまうかのような勢いで──。むさぼるように唇を甘噛みし、舌を潜り込ませ、口内をまさぐってくる。
「ん…っ」
いつもより激しい舌の動きに肌が泡立つ。彼の長い舌は私の舌を絡め、歯列をなぞり、吸い付いてくる。二人の唾液が混ざり合って妖しい水音が部屋に響いた。
「はぁ…、はぁっ」
いつもより激しいキスに、息が乱れるのもいつもより早かった。
「…どうした?」
弓弦はそんな私の顔を見て、にやっと意地悪く笑う。
「もう目がとろんとしてるけど…」
「だっ…て、弓弦が」
「俺のせいなのか?」
「…っ」
今度は首筋に軽くかみつかれて、体が震えた。
「じたばたするなよ、痣にあたるぞ」
彼はそう言って、私の両手首を左手で掴んでベッドに押し当てる。私の腕の動きを制限させて、無防備になった二の腕や脇のあたりに舌を這わせた。
「いや…っ!くすぐったい、ってば…!そんなところ、舐めるの…反則…っ」
私は必死で身をよじったけれど、覆いかぶさる彼から逃れることはできない。
「だから動くなって…」
彼は私の体を刺激しながらも、膝にあたらないように細心の注意を払っているようだった。私が足をバタバタさせるたび器用に避けている。こんな時でもやっぱり彼は優しい男だった。
激しい愛撫と私の膝を気遣ってくれる優しさに、私はいつも以上に感じてしまう。声を我慢できず、酸素が足りなくなって頭がぐらぐらする。
「はぁっ、はぁ…っ!どうして今日、こんな…!なんかいつもより、…、そこ、もうやめて…」
彼の舌は私の敏感なところを執拗に攻めている。体に電流が走ったみたいに、足先や指先がびくびくと震えた。
「どうして、って…。当たり前だろ、特別な日なんだから」
「ま、まだ…日付、変わってない、し…。っ、あ…っ」
「そんな細かいことを気にする余裕はあるのか。じゃあもっと激しくしてもいいな?」
「……っ!」
私は必死で首を振る。けれど、彼はそんなことおかまいなしだ。今でも十分恥ずかしい声が出ているのに、さらに大きな声が漏れてしまいそうで私は慌てて唇を噛む。
そんな私の様子を見て、「声を我慢しない」と弓弦が指で私の口をこじあけた。甘くとろけた悲鳴がこぼれ出て、私は一層羞恥に震えた。
「…っ!」
そして、わき腹や胸元を、いつもよりもきつめに吸われる。
「キスマーク…、つけようとしてるでしょ…」
「お前は俺のものだって確認してるだけ」
「だめ…だってば…!」
「外から見えるわけでもなし、いいだろ?」
「…っひゃ…!もう…っ!だ…め…うう…」
弓弦は全然言うことを聞いてくれない。きっと明日の朝鏡で見たら、あちこちに赤い痕がついていることだろう。普段の弓弦は、服で隠れて見えない場所でも気を遣って滅多に痕をつけたりしないのに。
「弓弦は…、明日有給だから、好き勝手にできるかもしれないけどっ!私は午前だけ仕事に行くんだからねっ…!起きれなかったら、一生恨むから…!」
私は荒れた呼吸の合間に抗議する。
明日は、私たちが付き合い始めてから一年の記念日だ。
本当は記念日を祝うために二人そろって有給休暇を取るつもりだったのだけど、私はどうしても仕事を終わらせることができなくて、かろうじて午後休ということになってしまった。
「…それは困るな」
「…でしょ!?」
「けど、それはそれで面白い。大事な記念日に寝坊って、いい思い出話になるじゃないか」
「~~~~!」
彼は俄然やる気が出てきたと言わんばかりに、自らの服のボタンに手をかけた。そして、そこそこに鍛えられた上半身をあらわにし、私を再度抱きしめる。
抵抗したくても、こうして彼の大きな胸板に抱きしめられると、彼の中の“男”を感じてしまってどうにも体が動かなくなる。
「変に力入れるなよ。大丈夫、ちゃんと感じれば感じた分だけ…あとでぐっすり眠れるから」
彼は熱っぽい声で囁いた。
(結婚願望がなかったから、最初は草食系なのかと思ってたけど…まったく違ったのよね。一年経っても…肉食なんだから)
私はもう、明日について考えることをやめた。
その後は、深夜までの長い長い時間、彼に翻弄されることとなる。