アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
同じ藤原でも、左大臣家は朱鳥の家とは別格である。

今回左大臣に就任した儀式として開く大饗に呼ばれるのは名誉なことに違いなく、朱鳥はうれしくて仕方なかった。

人前で舞を披露するのは気が重いが、左大臣家は都で随一と言われる豪華な寝殿であるという。
そんなところに行ける機会など今回を逃しては二度とないだろう。

しかも、兄が傍にいてくれる。

『わたしがその場にいるから、何も心配することはない』

兄の力強い励ましのおかげで、朱鳥は不安よりも期待に胸を躍らせている。

「朱鳥さま」と、遠くから呼ぶ声を耳にした朱鳥は、踊りの手を止め、ふぅーとひと息ついた。
「姫さま姫さま!北の方さまが、お探しになっていらっしゃいますよ」

「はいはい。わかりました」

「姫さま、どうぞ」

「ありがとう」

女房が差し出した手水鉢に布を浸し、朱鳥は汗を拭いた。

「おかあさまは怒っていらっしゃる?」

「ええ、着替えは済んでいるのかとおっしゃって。
 もうすぐお客さまがいらっしゃいますから」
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